夏の終わりのある日、庭の手入れをしていると、ふと奇妙な虫が目に留まりました。それは、今まで見たことのない、黒くて艶があり、体がキュッと細長くくびれた蜂のような姿をしていました。大きさは2センチほどでしょうか。ミツバチのように丸っこくなく、アシナガバチのように脚が長くぶら下がっているわけでもありません。まるで黒い糸で胴体を縛ったかのような、独特のフォルムです。その虫は、地面のすぐ上を低空飛行しながら、何かを探しているように見えました。時折、地面に降り立ち、短い時間じっとしてから、また飛び立つという行動を繰り返しています。何をしているのだろうかと、少し離れた場所から息をひそめて観察を続けました。すると、その虫は特定の場所で地面を掘り始めたのです。前脚を器用に使い、土を掻き出していきます。しばらくすると、小さな穴ができあがりました。驚いたのはその次の行動です。どこからか緑色の芋虫(おそらくガの幼虫でしょう)を運んできて、その穴の中に引きずり込んでいったのです。そして、再び土で穴を丁寧に埋め戻し、何事もなかったかのように飛び去っていきました。あまりに手際の良い一連の作業に、私はただただ感心するばかりでした。後で調べてみたところ、おそらくあれは「ジガバチ」という狩り蜂の一種だったようです。地面に巣穴を掘り、狩った獲物を麻痺させて運び込み、そこに卵を産み付けるのだとか。幼虫はその生きた餌を食べて育つという、少しホラーな、しかし生命の営みとしては非常に合理的な生態を知りました。最初は見慣れない姿に少し警戒しましたが、人を襲うような素振りは全くなく、黙々と自分の仕事(子育ての準備)をこなしている様子を見て、なんだか応援したいような気持ちにさえなりました。庭には様々な生き物が暮らしているのだなと、改めて実感した出来事でした。あの黒くて細長い蜂は、私にとっては「謎の訪問者」から「庭の小さな隣人」へと変わった瞬間でした。