あれは忘れもしない、夏の終わりのことでした。部屋の害虫が気になり、週末を利用してバルサンを焚くことにしたのです。説明書を読み、家具にカバーをかけ、ペットの猫を連れて家を出ました。推奨放置時間は確か3時間ほどだったはずです。外出ついでに買い物を済ませ、友人宅でお茶でもしようと考えました。ところが、話に夢中になっているうちに、すっかりバルサンのことを忘れてしまったのです。気づいた時には、家を出てから既に6時間以上が経過していました。慌てて帰宅し、玄関のドアを開けると、モワッとした空気と共に、普段のバルサン使用後とは違う、明らかに濃い薬剤の臭いが鼻をつきました。窓を全開にして換気を始めましたが、空気は重く淀んでおり、なかなか臭いが抜けません。しばらく外で待機し、意を決して中に入ると、目がチカチカし、喉に軽い痛みを感じました。床や家具の表面には、心なしか薬剤がうっすらと付着しているような、妙なベタつきを感じます。特にプラスチック製の小物入れの色が、少し変色しているように見えた時は冷や汗が出ました。その後の掃除は本当に大変でした。換気を長時間続けながら、床や壁、家具の表面を何度も水拭きし、掃除機をかけました。猫を家に入れるのは、臭いとベタつきが完全に消え、安全だと確信できるまで丸一日以上かかりました。幸い、私自身や猫の健康に大きな問題は起きませんでしたが、あの時の不安と後処理の手間を考えると、二度と放置しすぎるまいと固く誓いました。この経験から学んだのは、説明書通りの時間を守ることの重要性です。タイマーをかける、外出時間をしっかり管理するなど、うっかりを防ぐ工夫がいかに大切かを痛感しました。バルサンは正しく使えば頼もしい味方ですが、一歩間違えれば厄介な事態を招く、そのことを身をもって知った出来事でした。皆さんも、くれぐれも放置時間にはご注意ください。