「虫に刺されてできた水ぶくれが、痒くて我慢できずに掻き壊してしまった」。これは、皮膚科の診療で非常によく聞かれるお悩みの一つです。パンパンに張った水ぶくれは、つい針で刺して中身を出したくなる衝動に駆られるかもしれませんが、それは絶対に避けるべき行為です。なぜなら、水ぶくれを意図的に潰すことは、自ら皮膚のバリアを破壊し、様々なリスクを招き入れることに他ならないからです。水ぶくれの中の液体は、主に体の組織液であり、基本的には無菌です。そして、その上の薄い皮膚は、外部の細菌から傷ついた皮膚を守る、天然の絆創膏のような役割を果たしています。これを破ってしまうと、防御壁がなくなった無防備な傷口が露出し、そこから黄色ブドウ球菌などの細菌が侵入しやすくなります。これが「二次感染」です。二次感染を起こすと、傷口がジュクジュクと化膿したり、痛みが強くなったりするだけでなく、治りが大幅に遅れ、色素沈着などの跡が残りやすくなります。特に子供の場合は、掻き壊した部分から「とびひ(伝染性膿痂疹)」に発展し、全身に症状が広がってしまうこともあります。もし、不幸にも水ぶくれが破れてしまった場合は、まず清潔な流水で傷口を優しく洗い流してください。そして、消毒液は刺激になることがあるため自己判断では使わず、抗生物質を含む軟膏を塗り、清潔なガーゼや絆創膏で必ず保護しましょう。水ぶくれは「潰さない」のが大原則。もし潰れてしまったら「感染させない」ことが最優先。この二つを、どうか忘れないでください。