夏場、特に水田や畑の近くで、オレンジと黒の鮮やかな体色をした小さな虫を見かけることがあります。体長は7ミリメートル程度、細長い体つきで、一見するとアリのようにも見えますが、この虫こそが「やけど虫」という恐ろしい俗称を持つ「アオバアリガタハネカクシ」です。ハネカクシ科に属する甲虫の一種で、日本全国に生息しています。彼らが「やけど虫」と呼ばれる所以は、その体液にあります。アオバアリガタハネカクシの体液には、「ペデリン」という強力な毒成分が含まれています。このペデリンは、皮膚に付着すると数時間後から強い炎症を引き起こし、まるで火傷(やけど)をしたかのような水ぶくれや痛みを生じさせるのです。重要なのは、この虫は人を刺したり咬んだりするわけではないということです。被害の多くは、人が無意識のうちに虫を潰したり、払い落とそうとして体液に触れてしまうことで発生します。特に、腕や首筋などにとまった虫を手で払いのけた際に、線状に体液が塗りつけられ、特徴的な「線状皮膚炎」を発症することがよく知られています。アオバアリガタハネカクシは、水田や畑、湿地、草むらなど湿った環境を好み、昼間は草の根元などに隠れていますが、夜になると灯りに誘われて活動が活発になります。そのため、網戸のない窓から明かりに誘われて家の中に侵入したり、外に干していた洗濯物についていたりすることもあります。見た目は小さく、色も鮮やかですが、その体液に秘められた毒性は非常に強力です。もしこの虫を見かけても、決して素手で触ったり、潰したりしないように細心の注意が必要です。やけど虫の正体を知り、その危険性を理解しておくことが、被害を未然に防ぐための第一歩となります。