あれは忘れもしない、蒸し暑い夏の夜のことでした。リビングでくつろいでいると、ふと天井のシーリングライトに違和感を覚えたのです。カバーの内側に、何やら黒くて大きな影が見えました。最初は気のせいか、あるいはただの汚れかと思ったのですが、次の瞬間、その影がゆっくりと動いたのです。「ひっ…!」思わず小さな悲鳴が漏れました。それは間違いなく、虫でした。しかも、かなり大きい。おそらくガの一種でしょう、手の指の第一関節くらいの大きさはありそうです。カバーの中で、光に照らされながら不気味に動き回っています。その存在に気づいてしまった瞬間から、もうリラックスどころではありません。視線は天井に釘付け、心臓はバクバクと鳴り響きます。どうしよう、どうやってアレを取り出せばいいんだ…?考えれば考えるほど、恐怖心が増していきます。カバーを外した瞬間に飛び出してくるかもしれない、床に落ちて部屋中を飛び回るかもしれない。想像するだけで鳥肌が立ちました。夫は虫が大の苦手で、全く頼りになりません。私がやるしかない…意を決して椅子を用意し、恐る恐るカバーを外そうと試みました。しかし、カバーを少しずらしただけで、中の虫が激しく動き出し、その音と気配に耐えきれず、私は椅子から飛び降りてしまいました。結局その夜は、リビングの電気を消し、見なかったことにして寝室へ逃げ込みました。翌朝、明るい中で改めて確認すると、虫は動かなくなっていました。夜のうちに力尽きたようです。それでも、死骸を取り出す作業は本当に気が重く、ゴム手袋とマスクで完全防備し、息を止めて行いました。あの巨大な虫の影と、カバーの中で動く不気味な感触は、今でも忘れられません。もう二度とあんな経験はしたくないと、心から思った出来事でした。