春の日差しが暖かくなると、ふと気づくことがあります。マンションのベランダ、公園のコンクリート壁、駐車場のブロック塀…そんな無機質な場所に、鮮やかな赤い小さな点が、せわしなく動き回っているのを。大きさは1ミリほど。よく見ると8本足。まるで小さな赤い蜘蛛のようにも見えるけれど、どこか違う。この、コンクリートの上を好んで歩き回る赤い小さな虫の正体は、一体何なのでしょうか?この虫は、多くの地域で「タカラダニ」と呼ばれているダニの一種です。特にカベアナタカラダニなどが、この行動を示す代表例とされています。彼らがなぜ、春から初夏という特定の時期に、そしてコンクリートのような場所で大量に姿を現すのか、その理由は完全には解明されていませんが、いくつかの説があります。一つは、餌を求めているという説です。コンクリートの表面には、目には見えにくいですが、風で運ばれてきた花粉や、微細な藻類、地衣類などが付着しています。タカラダニはこれらを食べているのではないかと考えられています。春は花粉が多く飛散する時期であり、彼らの活動期と重なることから、この説は有力視されています。また、日光浴をしているという説もあります。変温動物であるダニにとって、太陽の熱を浴びて体温を上げることは、活動を活発にするために重要です。コンクリートは日光を吸収して暖かくなりやすいため、タカラダニにとって都合の良い場所なのかもしれません。繁殖行動のために集まっているという可能性も考えられます。この時期に成虫となり、交尾・産卵のために特定の場所に集まる習性があるのかもしれません。しかし、タカラダニのオスは非常に稀にしか見つかっておらず、単為生殖(メスだけで子孫を残すこと)をしている可能性も指摘されており、繁殖生態については謎が多いのが現状です。いずれにしても、彼らがコンクリート上を活発に動き回る姿は、私たち人間にとっては少し奇妙で、時に不快に感じられる光景です。しかし、彼らなりに、生きるための理由があって、そこで活動しているのでしょう。人を刺すなどの害はほとんどないとされていますが、潰すと赤いシミになるので、洗濯物などには注意が必要です。もし見かけても、過剰に怖がる必要はありません。自然界の小さな営みの一つとして、そっと見守るか、気になるようなら水で洗い流す程度で十分でしょう。