2025年12月
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飲食店が知るべき総合的有害生物管理
飲食店のゴキブリ対策というと、多くは発生してから殺虫剤を撒くといった対症療法をイメージしがちです。しかし、現代の衛生管理では、より科学的で持続可能なアプローチが求められています。それが、IPM(Integrated Pest Management)、日本語では「総合的有害生物管理」と呼ばれる考え方です。IPMは、ゴキブリなどの有害生物を、ただ闇雲に殺虫剤で駆除するのではなく、環境的、物理的、生物的な様々な手法を組み合わせ、人や環境へのリスクを最小限に抑えながら、その生息数を許容できないレベル以下に管理していく手法です。具体的には、まずゴキブリが発生しにくい環境を作ることが基本となります。これは「環境的防除」と呼ばれ、日々の清掃を徹底して餌や水を与えないこと、整理整頓で隠れ家をなくすこと、建物の隙間を塞いで侵入経路を断つことなどが含まれます。次に「物理的防除」です。これは粘着トラップなどを設置してゴキブリの生息状況をモニタリングし、早期発見に努めたり、捕獲したりする手法を指します。これらの予防的な措置を講じた上で、それでもなお問題が解決しない場合に、最後の手段として「化学的防除」、つまり殺虫剤の使用を検討します。その際も、薬剤の使用は必要最小限に留め、ベイト剤(毒餌)のようにピンポイントで効果を発揮する方法を選択します。このIPMの考え方を導入することで、飲食店は過度に殺虫剤に頼ることなく、より安全で効果的なゴキブリ対策を実現できます。それは、従業員やお客様の健康を守ると同時に、環境への配慮にも繋がります。場当たり的な駆除から、計画的で継続的な管理へ。この発想の転換こそが、未来の飲食店のスタンダードとなるでしょう。